【亀井岬IFAコラム】富裕層の債券投資:ドイツ銀行AT1債(CoCo債)コール見送りの検証

2025年4月25日(金)

株式会社アイ・パートナーズフィナンシャルの所属IFA、亀井岬と申します。

金融資産を1億円以上保有される富裕層の方々からご相談をお受けしております。

専門家や機関投資家が愛用するブルームバーグの専用情報端末を利用し、債券分析やポートフォリオ分析を行っております。現在は数十世帯から数十億円の資産を仲介する証券口座で管理し、資産運用のアドバイスを行っております。

本日は「富裕層の債券投資:ドイツ銀行AT1債(CoCo債)コール見送りの検証」についてお話させていだければと存じます。最後までご覧いただけましたら幸いです。

またポートフォリオ見直し、債券に関すること、資産承継、投資教育など、ご相談に関しましては以下のフォームよりお申込み頂けましたら幸いです。(ご相談は金融資産1億円以上の富裕層の方々から承っております

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目次

富裕層の債券投資:ドイツ銀行AT1債(CoCo債)コール見送りの検証

富裕層の中には提案されている方も多いAT1債。その高いクーポン利回りは確かに魅力的ですが、「永久債」という性質上、発行体のコール(早期償還)判断によって償還タイミングが大きく左右されます。

本記事では、ドイツ銀行が2025年にAT1債のコールを見送った背景を掘り下げるとともに、2020年のケースとの比較を通じて、富裕層投資家が押さえておくべきポイントを整理します。

・なぜドイツ銀行は2025年AT1債(CoCo債)のコールを見送ったのか?

・ドイツ銀行は2020年にもAT1債(CoCo債)のコールを見送っているがその違いは?

・富裕層債券投資家への教訓は何か?

【筆者作成】

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なぜドイツ銀行は2025年AT1債(CoCo債)のコールを見送ったのか?

2025年3月、ドイツ銀行(Deutsche Bank)は2本のドル建てAT1債(CoCo債)のうち一方のみを繰上償還(コール)し、もう一方の繰上償還を見送る決定をしました。

具体的には、額面15億ドル・表面利率7.5%のAT1債については2025年4月30日に繰上償還するとし、一方で額面12.5億ドル・表面利率4.789%(クーポンリセット前)のAT1債については繰上償還を実施せず、残存させる決定を下しました。

なぜドイツ銀行は2025年AT1債(CoCo債)のコールを見送ったのでしょうか?今回注目されている観点として、為替差損の自己資本への影響を考慮したのではないかというものが挙げられます。

・為替差損の自己資本への影響

1.為替差損の自己資本への影響

一般的に発行体が早期償還を判断する際には経済合理性に基づいて、その債券を継続して発行しておく場合と、新規に借換を行う場合にどちらが経済的に得かという判断をすると言われています。

具体的には今回の2つの債券のうち、額面15億ドル・表面利率7.5%のAT1債については2025年4月30日に繰上償還するとし、一方で額面12.5億ドル・表面利率4.789%(クーポンリセット前)のAT1債については繰上償還を実施しないという判断を下しました。

繰上償還が見送られた後者の債券は、再計算後のクーポンが約8.46%に跳ね上がり、次回のコール可能日が2030年4月30日に延長されることになりました。

一方でコールスキップ発表後も両債券の市場価格に大きな変動は見られず、コールされなかった債券も発表前の価格と大きく乖離しない水準で取引されました。

今回はその経済合理性の判断の一環として、為替差損の認識について論点があったと言われております。具体的には両債券はドル建てで2014年に発行されていました。

発行時からユーロに対してドル高が進行したため、現時点で繰上償還すると、為替差損として合計約4億ユーロ(7.5%債で約1.7億ユーロ、4.789%債で約2.3億ユーロ)の損失が生じるとの試算がありました。

この一時損失は、2025年通期の純利益見込み(約63.2億ユーロ)と比べても無視できない規模であったため、経営陣は債券ごとの利払いコストだけでなく為替損益インパクトまで含めて、総合的に2つの債券について早期償還の可否を判断したと考えられています。

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ドイツ銀行は2020年にもAT1債(CoCo債)のコールを見送っているがその違いは?

遡ること5年ほど前、ドイツ銀行は2020年4月30日に初回コール日が設定されていた表面利率6.25%のAT1債のコールをスキップすると表明しました。では今回のコールスキップと2020年ではどのような共通点や違いがあるのでしょうか?

・共通点:純粋に経済合理性に基づいて判断している点

・相違点:市場環境と経営状況

1.共通点:純粋に経済合理性に基づいて判断している点

2020年と2025年の両事例に共通する点は、ドイツ銀行がAT1債の繰上償還可否を純粋な経済合理性に基づいて判断したということです。

いずれの場合も市場で新規に資本を調達して債券を償還するよりも、既存債を延長した方がコスト面で有利と判断されたため、コールスキップという選択肢が採用されたと言われています。

また、両ケースとも規制資本を温存し自己資本比率を下支えする効果があり、特に2020年のコロナ禍においてはドイツ銀行は危機時にも資本の一部を減少させることなく事業継続性を保つことができたと言われています。

一方で投資家にとってはいずれのケースでも契約上許容された範囲内の事象であるものの、広い目で見れば、その期待に反する行為だったと言えるかしれません。

しかしこのコールスキップによって直ちにドイツ銀行がその信用力毀損させたり、市場から締め出されたりはしなかった点も共通しています。

​むしろドイツ銀行は両局面ともに再度その後の資本市場からの資金調達に成功しています。2020年においてはAT1市場が混乱から明けたのちに新規発行をこなしました。

また2025年においても2銘柄のうち1銘柄のコールスキップを発表した流れの中で、新たなユーロ建てAT1債の発行にも踏み切っています。

2.相違点:市場環境と経営状況

2020年は、世界的な大変な危機の中でドイツ銀行も非常に困難な立場にありました。そのためコールを見送る決断は自然なもので、市場もその状況に従わざるを得ませんでした。

一方、2025年は通常時の戦略的な判断として、あえてコール見送りの選択がされました。銀行の財務状態が改善しており、投資家が期待する内容と銀行としての経済的な利益がぶつかったと言えるのではないでしょうか。

さらには投資家の反応にも違いが見られます。2020年は市場全体が混乱していたため、ドイツ銀行ひとつへの批判はあまり大きく目立ちませんでした。

しかし、2025年は個別の決断として注目され、厳しい目で見られる可能性もありました。それでもドイツ銀行は一部債券の早期償還や、事前に十分な説明を行うことで、投資家から大きな反発を避けることが出来たと言われています。

つまり、2025年はより高度な信頼管理が求められる場面だったと言えます。

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富裕層債券投資家への教訓は何か?

今回のドイツ銀行によるAT1債コール見送りは、一見すると例外的な判断に見えますが、実は市場参加者が見落としがちなリスクや債券契約の本質を再確認させる格好の機会となりました。

高利回りが魅力のAT1債とはいえ、発行体の判断一つで償還スケジュールは大きく左右されること、そして金利・為替・資本規制など複数の要素が絡み合う点は、富裕層の債券投資家にとって決して軽視できないポイントです。

こうした背景を踏まえ、投資判断の際には以下のような教訓を押さえておく必要があるのではないでしょうか?

・初回コール日で早期償還されるとは限らない

1.初回コール日で早期償還されるとは限らない

AT1債(CoCo債)は「永久債」と呼ばれ、発行体が早期償還(コール)できるのはあくまで“権利”に過ぎません。過去の低金利期に初回コール日でコールされることが相次いだため、「必ず償還されるものだ」という誤解が広まった可能性がありますが、一般的に下のような特徴があります。

  • 損失吸収条項
    一定の条件で元本が削減されたり株式に転換されたりする仕組みが組み込まれています。
  • 永久性
    原則償還期限がありません。
  • 任意・非累積の利払い
    利払いは発行体の裁量で行われ、原則未払い分を後でまとめて支払うことはありません

このような特徴を持った債券がもし「必ず償還される」ことが前提であったとすると、資本(自己資本)として認められず、負債扱いになってしまうのではないでしょうか?

さらに:

  • 金利ステップアップの禁止
    初回コール日で見直し金利がステップアップする仕組みが認められなくなったため、償還するかどうかはやはり“経済合理性”に基づいて判断されるようになっています。
  • 為替の影響
    さらに今回のように、発行体の決算に用いる通貨と調達通貨が異なる場合、資金調達後、調達通貨が強くなると早期償還で為替差損が発生しやすくなるため、コールを見送るケースが出てきています。

以上を踏まえ、AT1債は初回コール日に自動的に償還されるわけではなく、市場環境や発行体の判断条件を総合的に勘案して決定される点に注意が必要です。

私にご相談いただくメリット

今回の記事は皆さまのお悩みやご関心に沿うものとなっていたでしょうか?私は冒頭でお示ししましたように、金融資産を1億円以上保有される富裕層の方々から投資に関するご相談をお受けしております。

以下は手前味噌ではございますが、ご相談の際に特にご好評を頂き「亀井に相談して良かった。」とおっしゃっていただいているポイントでございます。

  • 専用情報端末を使ったリスク分析債券分析
  • 大学での講師経験に基づいたライフプラン作成
  • 蓄積された富裕層に対する資産運用アドバイスの経験
1.専用情報端末を使ったリスク分析・債券分析

私はプロの機関投資家も愛用するブルームバーグという専用情報端末を用いて、様々な分析を行っています

ブルームバーグは相応の費用がかかることもあり、IFAとして活動しているアドバイザーは日本に数千人存在しますが、このシステムを導入しているようなアドバイザーは1%もいないのではないでしょうか。

少なくとも私は過去1人しかお話を伺ったことはございません。ブルームバーグを用いることで、①ポートフォリオがどれだけのリスクを取って運用されているのか ② リーマンショックなどの大きなショックが起こった際の最大損失シミュレーション ③ ご相談者ごとの理想的な資産配分等の分析が行えます。

実際に分析を行わせて頂いたお客様からは、「リスクに非常に偏りがあったことがわかった。」など、さまざまなご感想を頂いております。

また債券は一般にはその情報が公開されていることが少ないため、上述のブルームバーグのような専用情報端末を用いた分析が欠かせません。債券の値動き分析、ご要望に合わせた債券の発掘など様々な側面でお役に立つお話をさせて頂いております。

2.大学での講師経験に基づいたライフプラン作成

私は2023年4月より2年間にわたって、年に26コマ、私立大学にて『投資教育・ライフプランニング』の講義を行ってまいりました。その経験で培ったライフプランニングの考え方に基づき、ご相談者様それぞれのお立場に合わせたライフプランニング作成を行っています。

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野村證券では、シンガポール社費留学時代に数十人の海外プライベートバンカーと面談を行い、海外の運用手法を研究しました。また帰国後、超富裕層に対して資産運用アドバイスに従事したのち、三菱UFJメリルリンチPB証券に転職し、債券知識の研鑽に努め、現在まで16年に亘って富裕層の方々に対する資産運用アドバイスを行っております。

どのようなお悩みでも構いません。よろしければ亀井岬までご相談くださいませ。この度は長文をお読みいただきまして、誠にありがとうございました。

ご相談

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